フォトリポート北海道:96歳の鍛冶職人・三木田久之助さん /北海道

◇「もの創り」書道にも共通点
 「カン、カン、カン」。日高管内新ひだか町静内豊畑の作業小屋で鉄板にハンマーを打ち付ける音が響く。作業をしているのは96歳の三木田久之助さん。鍛冶職人になって80年余り、今も現場に立つ。

 1913(大正2)年、旧静内村(現新ひだか町)生まれ。尋常高等小学校卒業後、父親を手伝って仕事を始めた。当時は農耕馬のてい鉄や農機具の修理などで繁盛し、同業者も多かった。しかし、70年前後からトラクターなどの大型機械の導入で農耕馬も減り、修理も直接、農機具メーカーに持ち込まれ、仕事は激減した。同業者は次々に廃業し、豊畑で鍛冶屋を続けているのは三木田さんひとりになった。

 それでも、客の細やかな要望に応え、家業を守り続けてきた。クマを生け捕りにする檻(おり)、アイヌ民族の古式舞踊に使われる刀、牧草ロールを受ける荷台など、工夫を凝らした製品は数知れない。途中、2度の火災で作業所を失ったが、再建して仕事を続けてきた。今でも年間50件近い仕事があり、朝5時半に起き、1日4時間ほど石炭炉の前で作業をする。

 80歳の時、妻の松恵さん(99年死去)と地元の書道教室に通い始め、今年、全道書道展の最高齢出品者となった。「鍛冶と書道、『ものを創(つく)り出す』という共通点があり、いくらやっても飽きません」。この日書いたのは「夢」。力強く、凜(りん)とした作品だった。【写真・文、近藤卓資】

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