1月31日22時23分配信 産経新聞
凍(い)てつくような不況風。100年に一度の烈風を身を固くして耐え、行き過ぎることを待つ経営者が少なくないなか、風穴を開けようと敢然と逆風と対峙(たいじ)し、前に歩を進める中小企業もある。通底するのは「知恵」の2文字の結集。新たなアイデアを求め、新規採用を重ねる鋼材会社、社員一丸となってオンリーワンを追求するボタンメーカー…。“なにわの賢者”に厳冬を生き抜く知恵を聞いた。(池田祥子)
■赤裸々な提示
「社員が増えたら新たな仕事を探し出せ」を合言葉に、毎年2人ずつ新卒採用を重ね、業績を伸ばし続けている鋼材販売・加工会社の「梅南鋼材」(大阪市西成区)。年商約6億円という小規模の会社だが、今春も2人の新入社員を迎えることが決まっている。
堂上勝己社長(57)が社員に常に求めているのは知恵の結集。そのため社の経営状態を赤裸々に示している。徹底した“家族主義”で、社員は会社の行く末を自分のこととして考え、知恵を絞る。
会社に余裕のなかった平成16年。新しい発想こそ企業の延命や成長につながると決断して新卒の高校生を採用した。このとき「新たな仕事を」と考えた社員から出た提案が、「(販売だけでなく)新しく鋼板を加工する機械を購入して商品を作る」ことだった。わずかな発想の転換に過ぎなかったが、これで部品1個のニーズにも対応できるようになり、販路は拡大した。
堂上社長は、また「産産連携」の横請けネットワーク確立にも尽力する。商品の注文を受けたA社に受ける余裕がない場合でも断らずに受注し、梅南鋼材の仲介で同業のB社が商品を製作する-という仕組みだ。
「一度断ると二度と注文がこなくなる」という厳しい経営環境にあって「自社だけが頑張っても、産地が衰退してしまえば意味がない。今は競争でなく共生の時代」と堂上社長。
「すべてがずっと悪いわけじゃないし、今持っている力でどうできるか、発想を転換すればまだまだやれる」
■オンリーワン
大阪府柏原市の「小西釦(ぼたん)工業」も厳しい経営状況を「アイデア」で乗り切った。小西淳社長(62)が「倒産ギリギリのところまでいった」と述懐する窮地を救ったのは、オリジナルのサンプル帳。最新のファッションに身を包んだモデルの写真とともにボタンが並ぶA4判の1冊が、「営業スタイルを受けから攻めに転じた」証だ。
平成10年、中国産の安価な商品が業界を圧迫し、従業員数を約半数の22人に削減した。「どうしたら商品をもっとアピールできるのだろうか」。ヒントは何気なく参加していたボタンの展示会にあったという。
アパレルメーカーは、ボタンだけを見て購入するボタンを決めるわけではない。マネキンが着ている服との“相性”でボタンを決めていることに気付いた。「ここの展示会をそのまま持ち運びできれば」。社員と試行錯誤の末に生み出したのがサンプル帳だった。
それまでの商品紹介手帳はただボタンを張り付けただけのものだったが、パリやミラノのコレクションの情報から翌年流行するスタイルの写真とボタンを一緒に示して、「来年はこのスタイルがはやり、このボタンはこんな感じに使える」と提案を始めた。
「お金を払ってでもほしい」。ファッション性の高さがすぐにメーカーの心をとらえた。視覚で訴える提案型サンプル帳が、メーカー側にイメージを膨らませて製作しやすいという利点を生んだのだ。自然に注文が舞い込み始めた。すぐに他社も後追いしたが、オンリーワンの創意工夫の継続で勝負している。
小西社長はこう話す。
「強みは、自分たちにしかできない技術があること。そして、あくまでも企画力や品質で対抗していく」。