先日、韓流雑誌の編集者から「韓流元年」という言葉を聞いた。ドラマ『冬のソナタ』が日本で初めて放送された2003年をそう呼び表すようだ(地上波での放送が始まった2004年を元年とする場合もある)。興味のない人にとってはまるで無意味な元号だが、ブームの起点を表す表現としては面白い。ならば韓国料理の流行を追いかける立場として、ごく私的に2005年を「食の韓流元年」と制定してみたい。韓流の影響から韓国に関する情報があふれ、繁華街やコリアンタウンを中心に、韓国料理店が少しずつ増え始めていったのがちょうどその頃だった。
当時、韓国料理人気を牽引した料理のひとつにサムギョプサルがある。豚バラ肉を用いた焼肉料理だが、韓国では宴会料理の定番とされるほど人気が高く、趣向を凝らした専門店も多い。日本にもそれが流入し、肉質にこだわる店(ブランド豚を使用)、焼き板にこだわる店(石板、水晶板、スコップを模した鉄板)、味付けにこだわる店(ワイン風味、ハーブ風味)など、いろいろなスタイルの店が誕生した。
魅力はさまざまだが、共通して人気を集めた要素のひとつに野菜との組み合わせがある。韓国では焼肉を食べる際も、サンチュ、エゴマの葉といった葉野菜を用意し、肉を包んで食べるのが作法。副菜としてキムチやナムルといった小皿料理もたくさん並ぶ。肉料理でありながら、野菜もたくさん摂取できるとして、そのヘルシーさが注目を集めた。人気店として活躍する店を見ても、野菜の使い方が上手なところは多い。
東京、赤坂の「やさい村大地」は、豚焼肉とともに大量の葉野菜を提供する「サムパ」の専門店。炭火で網焼きにした豚バラ肉や肩ロースを、いろいろな葉野菜で包んで食べるのがこの料理の特色だ。テーブルの端から端まで、ずらり並べられた野菜は常時16種類以上。これらの野菜を好みで組み合わせるのが醍醐味で、例えば葉野菜のサンチュやケールで焼けた豚肉を包みつつ、食感のいい水菜や、香りのよい青ジソを加える、といった味わい方が出来る。ほかにも春菊、チンゲンサイ、バジルなど多彩な野菜を用意するほか、韓国ではほぼ見かけないタデ(蓼)などの珍しい野菜も取り入れている。組み合わせ方次第で、豚肉の味がガラッと変わるのが面白い。
東京、新大久保にある「ECOてじまぅる」も豚肉と野菜の組み合わせにこだわる店のひとつ。山形県酒田市の「平田牧場」で生産される健康で高品質な豚肉や、同じく山形県鶴岡市の「産直あぐり」から仕入れる有機野菜、韓国の仁川市から輸入する無添加のテンジャン(韓国味噌)といった厳選素材で韓国料理を作る。美味しいだけでなく生産段階から環境に影響の少ないものを選ぶとの姿勢から、店名に「ECO」をつけた。看板料理とするのは豚バラ肉と一緒に煮込み、葉野菜で包んで食べるポッサム。店内では産直野菜の販売なども行っている。
いずれの店も豚肉と野菜の組み合わせとしては、本場を含めてもかなり先進的なスタイル。「やさい村大地」では韓国とはまた違う野菜の組み合わせを開発、発信しており、「ECOてじまぅる」では日韓の食材を組み合わせつつ環境への配慮もアピールする。「食の韓流元年」から4年を経て、もはや本場そのままの韓国料理では目新しさを発揮しにくい時代なのかもしれない。日本で生み出される工夫の数々は、韓国料理の新たな可能性を切り開いている。
●豚肉料理の魅力
韓国は豚肉の調理法が多彩で、さまざまな部位を食用としている。モリコギと呼ばれる頭肉を茹でて酢醤油で食べたり、コプテギと呼ばれる豚の皮だけを焼肉に仕立てたり。背骨とそのまわりについた肉はジャガイモと一緒に煮込んでカムジャタンという鍋料理に利用し、チョッパルと呼ばれる豚足は醤油ダレで煮込んで味わう。豚の血液を加えた腸詰めのスンデも屋台料理としてよく見かける珍味のひとつ。多様な食べ方そのものが、食文化に根付いた食材であることを示している。
●店舗データ(地図)
やさい村大地
東京都港区赤坂3-16-4DMKビル2階
03-3589-2389
ECOてじまぅる
東京都新宿区大久保1-16-5
03-5291-3783