9月28日8時30分配信 NNA
団塊の世代など、退職した人材を中心とした日本人技術者による韓国の中小企業への技術指導が活発化している。韓国の対日貿易赤字の主な要因となっている部品・素材分野での韓国の技術力を高めることが目的だ。今月17日にソウル市内のホテルで開催された「技術顧問マッチング商談会」には、日本人技術者23人、韓国の中小企業27社が参加。熱気あふれる話し合いが行われた。【韓国編集部・小池貴子】
商談会は、「第2回日韓産業技術フェア」(主催・日韓産業技術協力財団=JKF、韓日産業・技術協力財団=KJCF)の一環として行われた。
今回の商談会に先立って、KJCFのホームページでは日本技術士会や技術コンサルティングを手がける団体などに登録している技術者のプロフィルや専門分野を事前に公開。韓国企業は自社に必要な技術を保有しているとみられる技術者を選び、商談会で実際に“お見合い”する形がとられた。
初めてマッチング商談会に参加したという男性(71)は、造船会社での勤務や、大学の工学部教授を務めた経歴を持つ。この男性は、鉄板の表面処理装置の製造を手がける企業との商談に望んだ。「求められたのは自身が保有する技術と直接関係するものではなかった」とするも、これまでの経験を生かして韓国企業に役立てることがあれば協力していきたいと語った。
■背景に対日貿易赤字
両財団が日本人技術者による技術指導事業を行うに至った背景には、韓国の対日貿易赤字の拡大がある。
韓国銀行の資料によると、1965年の日韓国交正常化以降、日韓貿易が本格化したが、韓国の対日貿易赤字は年々拡大。特に、2000年以降の赤字規模は速いペースで拡大し、昨年は327億米ドルにまで膨らんだ。今年1~8月は170億2,900万米ドルの赤字となっている。
韓国銀は赤字拡大の理由として◇韓国の部品・素材産業の構造的脆弱(ぜいじゃく)性による対日輸入に依存した輸出構造◇製造や技術、協力などに対する認識や企業文化の差――などを挙げている。
日本と比較すると部品・素材産業が脆弱で、多くの部品・素材は日本からの輸入に頼っている。そのため、輸出が増えれば増えるほど輸出する製品に使われる部品・素材の輸入が拡大し、赤字が拡大するという悪循環の構造となっている。
特に、対日貿易赤字のうち、部品・素材分野が占める割合は60%を超え、このうち素材の割合は、2000年の40.2%から07年には56.6%に拡大している。
韓国の技術水準をみると、基幹技術を中心に弱さが目立つ。基幹技術確保のきっかけとなりやすい新製品の開発に取り組む企業は少なく、新製品開発技術(2008年基準)は、米国を100とした場合、日本が99.1と接近しているのに対し、韓国は85.9と大きく水を空けられている。
韓国銀は、日本には世界的に競争力のある中小の部品・素材企業が多い一方で、韓国は技術開発やマーケティング力の弱い零細企業がほとんどで、技術力が低いのが現状としている。
そのため、政府は部品・素材産業の育成や中小企業の役割強化、製造や技術に対する認識の向上などとともに、日本人技術者による技術指導を進める方針を打ち出している。
特に、07年以降、団塊の世代の技術者が数多く退職をしていることから、高い技術力を保有したこれら技術者による韓国での指導を積極的に行うことになった。日本人技術者のデータベース化や韓国の部品・素材企業と日本人技術者とのマッチングサービスを提供するほか、住居や医療など韓国での滞在環境の改善にも力を入れている。
■短期指導は計390社
1992年に行われた日韓首脳会談で提案された日韓貿易の不均衡是正を目的に、両国政府が予算を支援して設立したのがJKFとKJCFだ。韓国の中小企業を対象に、技術指導のほか、韓国人技術者の日本での研修、ビジネスマッチングなどの事業を実施している。
技術指導に関しては、4日程度の短期のものから、数カ月にわたる長期のものまでさまざまだ。対象となる分野は、機械組み立てや電気・電子組み立て、機械加工、射出成形、プレス金型、溶接、金属加工などが中心となる。
主な指導内容は、設計や加工などの技術指導のほか、品質管理やコスト削減など生産性の向上につながる工場の合理化や経営の指導に至るまで包括的に指導する。
1993年から行われている短期間の指導はこれまでに計390社が、延べ500人による指導を受けた。退職した技術者による長期の指導は昨年からスタート。熟練の技術者による指導を受けることで、韓国企業の技術力および生産性を高めることを目的としている。
初年度となる昨年には、12社に対して、日本人技術者による1~8カ月間の技術指導が行われた。今年はすでに、25社・25人が契約を締結しており、2~12カ月にわたる指導が行われている。
昨年、忠清南道・天安市にあるでんぷん容器メーカーで技術指導を行った、化学関連材料全般の技術コンサルティングを手がける男性(当時76歳)。月曜から金曜までの5日間、8カ月にわたり同企業を訪問し、でんぷん容器に耐水性や撥水(はっすい)性、撥油性を付与する技術の指導を行った。
男性が技術指導を通じて特に印象に残っていると話すのは「韓国人の熱心さ」だ。中小企業ではあるけれど、開発に積極的で熱意が伝わってきたという。
日本でのコンサルティングの経験は10年ほどになるが、指導することで新たな知識を得て、経験を積めることが最大のメリットと話す。単なる技術指導にとどまらず、新しい材料を用いて、研究・開発(R&D)を行えることから、指導する側が得るものも多いという。
今回の商談会では4社と話し合った結果、2社に指導を行う方向で話しがまとまりつつあるという。参加者の中では年齢が上の方だというが、「健康な限り韓国での技術指導は続けたい」と意気込みを語る。
■企業の満足度高い
実際に指導を受けた企業の反応も上々だ。
昨年、長期の技術指導を受けた企業12社に対するアンケートによると、同じ技術者からの指導を希望すると答えた企業は7社で、中でも、会社が費用負担をしてでも続けて指導を受けたいとしたのは3社に上った。
「技術指導を受けたことで、品質が改善した」と話すのは、接着剤や溶接剤を手がける韓国の大興化学工業の李ビョン華(ビョンは日へんに丙)理事だ。
同社は過去に日本やドイツの技術者から指導を受けた経験がある。以前、韓国中小企業新興公団が行った技術諮問では、1週間~1カ月の短期間ではあったが、日本人技術者に溶接材の材料の配合についての指導を受け、品質が向上したという。
今回はUVコーティング剤に関する技術支援を受けたいと、マッチング商談会に参加。2人の日本人技術者と面談を行った。
■滞在期間がネックに
ただ、技術指導がすぐに部品・素材製品の輸入に代わる技術に結びつくかは未知数だ。隣国とはいえども外国であるため技術者の長期での滞在が難しく、1回の滞在・指導期間が1週間程度と短いため、十分な指導が受けられないという指摘もある。
また、生産現場の技術的問題の解決を望む企業が多いが、韓国で指導を行うことのできる技術者は限られており、企業の需要を十分に満たすことができないのが現状だ。KJCF関係者は「より多くの日本人技術者が参加することで両者が発展できるよう、両国政府および団体の協力が必要」と指摘している。