12月7日15時39分配信 京都新聞
ゲリラ豪雨や洪水に備えるため、改正水防法で地下施設の管理者に義務付けられた「避難確保計画」の策定が、京都市内で進んでいない。法改正から3年がたつが、策定した民間企業はまだない。市が出資する会社が管理する地下街も、計画自体は策定済みだが、実行にはハードとソフトの両面で課題が残る。
■法改正3年、民間は策定ゼロ
京都駅前の地下街「ポルタ」(下京区)に通じる地上の階段口で、警備員がドリルを改良した器具を床に差し込んで回転させた。床面に収納された高さ約1メートル、幅約3メートルの鉄板がゆっくりと起き上がる。地上の水が地下に流れ込むのを防ぐ「止水板」だ。3分ほどで階段口はふさがった。
管理会社「京都ステーションセンター」は、昨春にまとめた計画に沿って止水板を増やし、これまでに浸水の恐れが強い9階段に備えた。しかし、階段は全部で39ある。設置に1000万円かかった階段もあり、同社の山口豊技術管理部長は「費用がかかるので、1度に全部とはいかない」と話す。本年度中にあと1階段に止水板を付ける計画だが、残る階段は当面、木の板や土のうなどで対応する。
市営地下鉄のほか、「ラクト山科」(山科区)と「ゼスト御池」(中京区)も昨春に計画をまとめた。
一方、民間で計画を作った会社は11月末現在でゼロだ。阪急電鉄は「自然災害に備えた防災体制の要綱を定めている。(計画策定は)検討課題だが、具体的な協議には入っていない」という。
民間の動きの鈍さについて、市消防局は「万一の浸水被害を実感しにくい。止水板などの設備投資費用もネックになっているのでは」と指摘する。
民間の計画策定を後押しするため、市消防局は今春、計画づくりの手引きを作った。大手企業から働きかけており、京阪電鉄が年内に計画をつくる予定だ。
計画を策定済みの地下施設も課題は残る。
ラクト山科は、計画で梅雨入り前に行うとした総合訓練と図上訓練をまだ実施できていない。管理する京都シティ開発は「(社員や店員に)水防機材の使い方に慣れてもらっている段階」という。
ゼスト御池は、階段の降り口と歩道の段差がほとんどないが、費用面から止水板の設置は実現していない。管理会社の京都御池地下街は「水害を想定していない構造なので、地上に早く逃げてもらうしかない」という。約1000台収容の地下駐車場を併設する上、地上に逃げた客の避難場所の問題もある。同社は「避難場所の提供など、近隣企業とのネットワークづくりが不可欠」と強調する。
ポルタも、道路冠水などの情報を迅速に入手するため、近隣企業約30社でつくる防災ネットワークに期待する。また、深夜から早朝にかけては警備員が6人しかいないため、社員の緊急招集の方法などを検討している。
■≪避難確保計画≫
1999年夏の豪雨が福岡市のビル地下街へ流入して飲食店員が水死するなど、都市の地下浸水が問題化するなか、2005年に改正された水防法で策定が義務化された。浸水想定地域内の地下街や地下駐車場など不特定多数が使う施設の管理者が策定し、各市町村に提出する。