12月17日16時53分配信 +D Mobile
12月10日に、エフルートが画像検索エンジンの刷新と、有限責任事業組合(LLP)の設立を発表した。この新しい画像検索のエンジンは、「Sedue」や「reflexa」などのエンジンを手がけるプリファードインフラストラクチャー(以下、プリファード)とエフルートが共同で設立した「FROUTE Search Technology LLP」の最初の成果物でもある。
これまでエンジンやサイトの自社開発を続けてきたエフルートが、なぜLLPを設立したのか。また、検索エンジンの開発をLLPに移管する理由はどこにあるのか。エフルート 代表取締役会長の佐藤崇氏、代表取締役社長兼CEOの尾下順治氏、プリファードインフラストラクチャー 代表取締役社長CEOの西川徹氏に、「FROUTE Search Technology LLP」の狙いを聞いた。
●LLPによって生まれた画像検索と次に見据えるサービス
── 今回のLLP設立に至る経緯などを教えてください。
尾下順治氏(以下尾下氏) 米国の『Forbes』のランキングによると、Googleさんのサービスのユーザー数は、1億2300万ぐらいとのことでした。でも、モバイルインターネットのポテンシャルはまだまだそんなものではありません。中国だけでもすでに6億を越える加入者がいて、アジアにはもっともっとモバイルをヘビーに使っているユーザーがいます。そこにリーチする検索エンジンの開発に、スモールスクリーン(ケータイの画面)に特化した形で、取り組んでいかなければなりません。なおかつユーザーの行動パターンや行動履歴を反映させる必要もあります。
一方で我々は、半年ぐらい前から、スケーラビリティ(システムの柔軟性・拡張性)とスピードの両立に悩み続けてきました。自分たちのスピード感を殺さず、スケーラビリティを追求していこうとすると、どこかと組んだほうがよかった。プリファードさんと組むことになったのは、「一緒に世界を獲ろうぜ」と同じ目線で夢を共有できたからです。
── 提携することで具体的にはどのような成果が得られるのでしょうか。
尾下氏 我々の持っているノウハウをさらけ出せば、プリファードさんの技術で、もっともっといいソフトに作り変えていくことができます。逆に我々は、これまで以上にユーザー向けのサービス開発に特化して、UIやサービスがどうあるべきかを追及できるのではないかと考えています。
今までのエンジンはすべて自社開発でしたが、基本的にノウハウは全部LLPに移管し、将来的には開発もすべてLLPで行ないます。その第1弾が、12月10日にリリースされた画像検索です。
── 新しい画像検索は、どのような部分が今までと違うのでしょうか。
佐藤崇氏(以下佐藤氏) 今までの検索はサービスレベルから考えた設計で、精度のコントロールを編集の力に頼っている部分がありました。そのため、エンターテインメント系の検索(電子書籍検索や着うた検索など)に対しては高い評価を得ていましたが、検索のニーズが多様化する中では、スケーラビリティも必要になります。スケーラビリティがあれば、事件が起こったときに検索した場合に、タイムリーな画像を表示できるようになります。こういった部分は、クローリングの方法やデータベースまで、じわじわと切り替えていきたいと思っています。画像検索は、ケータイの検索で非常にポピュラーな分野なので、まずはここからテコ入れを図った形です。
西川徹氏(以下西川氏) 新しい画像検索では、より速くクロールできるよう、システムを1から書き直しました。クローリングの速度は20倍以上に向上しましたが、改善すれば、さらなるスケーラビリティを出すことができます。
── 検索サイトのfroute.jpは、どのように進化していくのでしょうか。画像検索の次に考えていることを教えてください。
佐藤氏 まずは、動画や商品や辞書などのコンテンツ検索があります。直近で開発したものはそこそこ満足なのですが、サービスインから期間が経っているものなどは、テコ入れを図らなければなりません。また、お恥ずかしい話ですが、プリファードさんの技術が最も生きるのは、一般のWEB検索です。先ほどクローリングが20倍になるという話がありましたが、もっと速くしないと、どんどん増えるケータイのサイトを追いきれません。最近は、元々ネット事業をやっていなかった会社も、どんどんケータイに参入していますからね。
●LLPを設立した理由は、世界を目指せるサービスを提供するため
── なぜ、あえてLLPという形にしたのでしょうか。
尾下氏 こういうことは、同じ“箱”を共有しなければなかなかできません。プリファードさんに委託して、どこからどこまでが自分の業務かを線引きしなければならないないよりは、お互いが持っているものを気持ちよくはき出して、出来上がったものを共有したほうが、動きやすいんです。
佐藤氏 我々にとっては、ある意味リスクにもなります。ただ、そのリスクを考えても、彼らの持つスケーラビリティやスピード感が必要です。検索ユーザーがどんどん増えているので、早く次のステージに行きたいと思っています。
尾下氏 ユーザー目線で「こんなことできないの」というと、プリファードのエンジニアさんは「ああ、それなら簡単にできますよ」と返してくれるんですよ。かつて佐藤と会社を「こうしていこう」「じゃあそれで」とやり取りしていたころのような、懐かしい感覚でした。
西川氏 プリファードとしては、以前からケータイ向けの検索をやってみたかったというのが、理由の1つです。モバイル検索は、技術だけでは成り立ちません。ユーザーがいて初めて成立するものです。今回、こういう形でLLPを始めたのは、技術とサービス、両方の面から検索エンジンを作っていけるからです。
── このLLPで得た利益は、どのようにシェアしていくのでしょうか。また、ビジネスモデルはどうなるのでしょうか。
尾下氏 エフルートに関しては、ポータルのfroute.jpと検索エンジンという区別はありますが、検索エンジンで得た利益は完全に折半するつもりです。
自社サービスを優先すると、どうしても他社への提供を念頭に置かずに開発を進めてしまいますし、一部には、そもそも(サービスと技術の)切り分けが難しいものもあります。また、検索はモバイルのインフラになりうるので、ある程度まで中立を保っていなければいけません。今回のLLPができたことで、我々はもう少し積極的に、他社へ検索エンジンを提供できるようになりました。
佐藤氏 froute.jpにアクセスしてくるユーザーは大半が検索を利用するので、検索の機能強化はfroute.jpのウリにもつながると思います。もちろん、付加価値を付けていかないと差別化はできませんから、ユーザーの個別情報を蓄積していくなど、我々でなければできないものもやっていきたいですね。うちはコンテンツも持っているので、そういうところと連携させることもできます。
── 検索エンジンを提供したいと考えている会社やサイトはありますか?
尾下氏 すでにある程度、検索エンジンの開発競争で戦意を喪失されているところを想定しています。僕らもプリファードさんも、相当身軽な会社で、コスト構造にも融通が利きます。PCの世界と同じで、モバイルの世界でも、最終的に使われる検索エンジンの数は2~3社だと思います。日本でも、恐らくGoogleとYahoo!の2社は鉄板でしょう。そう考えると、3社目として、多くのプレーヤーの皆さんさんが参画してけるような環境にしていくべきなんです。この状況を三国志に例えれば、僕らは間違いなく蜀です(笑)。国家資源はないですが、人と志だけがある状況。この志に賛同してくれるところを募って、世界を目指せるようなサービスを作っていきたいなと思います。
もちろんビジネスなので、志だけでなく、実際に(検索を提供する)メディアが使いやすいものを作る必要があります。例えば、ありとあらゆる情報を集積、検索できるデータベースをプリファードさんに作っていただき、我々がフィルターを作るということも考えています。モバイルには色々なメディアがありますから、そこに合わせて個々にカスタマイズしていくことが、絶対に必要です。
●海外進出も視野に入れたサービス・技術開発
── プリファードさんは、今回のLLPでどのようなチャレンジをしたいですか。
西川氏 技術的には、ケータイ検索も、PC検索の延長線上で考えられています。ですが、ケータイユーザーとPCユーザーでは、行動もアクセスパターンも違います。コンテンツの分布も違いますし、中にあるテキスト情報も違います。本当はアルゴリズムの部分まで、変える必要があるんですね。このLLPでは、ケータイ向けの新しいアルゴリズムのようなものを構築していけたらなと考えています。ほとんどの検索アルゴリズムはアメリカの研究を輸入したものですが、アメリカは日本ほどケータイ検索が使われていません。日本発だからこそ、ケータイに特化したアルゴリズムを作ることができるのではないかと思います。
── 最終的にはそれらのサービスや技術を海外に持っていくことも考えているのでしょうか。
尾下氏 そうですね。それは十分に想定しています。米国のモバイル検索を見ていると、iPhoneやBlack Berry、Windows Mobileなどに代表されるように、ケータイインターネットがモバイルコンピューティングの延長で進んでいるので、PC検索がそのまま機能するかもしれません。ですが、少なくとも、アジアを中心としたWAPベース(ケータ向けの規格であるWAP2.0)の国々は違います。アジアのモバイルインターネットでは、我々の作ったものが生かせる可能性も多分にあるので、そこには積極的に展開していきたいなと思います。プリファードさんの持っている検索技術は、言語を問わず利用できるんです。当然今後世界を目指すことを考えています。
佐藤氏 近い将来、Googleも必ずケータイの世界にやってくると思います。1億数千万人のユーザーで、満足する会社とは思えませんからね。そうなると、主戦場はやはりモバイルになります。彼らとプロダクトとしてだけでなく、サービスとしても競争できる体制を作っていかないと、今後は戦っていけないのだと思います。
尾下氏 早めにGoogleさんにマークされるような会社になりたいですね(笑)
400万人のケータイユーザーを擁するエフルートと、スケーラビリティーある技術を持ったプリファードがタッグを組んで世界を狙う──。両社の狙いは、実に明確だ。日本発のケータイ検索が、Googleと世界で渡り合う日も、そう遠くはないのかもしれない。