■バングラの過酷さ訴え
福岡と山口の学生ら翻訳・出版
寿命を迎えた世界中の船の半数はバングラデシュに運ばれ、手作業で解体される。危険な作業に子どもが従事し、環境汚染も深刻だ。そんな実態を伝える英語の本を山口、福岡両県の大学生と高校生が翻訳して出版した。「自分たちと同世代の人たちが直面している困難を、多くの人に知ってもらいたい」と話している。(山下知子)
翻訳したのは、山口大と福岡大の医学部生6人と山口県内の高校生49人。国際人権連盟(FIDH)などが08年に出した「CHILDBREAKING YARDS」を翻訳し、「船舶解体現場の児童労働」という題を付けた。
取り上げられているのは、廃船解体作業の実態だ。満潮時に船を砂浜に座礁させ、干潮時に船尾から切り落としていく「ビーチング方式」。労働者はヘルメットもつけず、ガスバーナーで鉄板を切り落とす。落ちてきた鉄板に当たって死傷する事故が後を絶たず、爆発事故も多い。砂浜は流れ出た油で汚染されてゴムのようになり、七色に光る。
解体の重要な担い手が子どもたちだ。現地の人権団体によると、労働者の15~20%が15歳以下との報告がある。多くは貧困家庭の出身だ。翻訳作業に参加した下関西高2年の宮崎真衣さん(17)は、「生きることに精いっぱいな姿に驚いた」と話す。
学生たちは「そもそも船の最期なんて考えたこともなかった」と口をそろえる。福岡大3年の樫田祐輔さん(22)は「船のリサイクルと聞き、はじめはよいイメージが浮かんだ。しかし、海を汚し、多くの人が犠牲になっている現実があった」。
翻訳を呼びかけたのは、山口県宇部市の市民グループ人間いきいき研究会。同会は07年にも高校生の協力を得て廃船解体をテーマにした訳書を出しているが、今回は、児童労働により焦点を当てた内容となった。翻訳作業を見守った下関商業高校の簗田(やなだ)芳樹教諭(51)は「同年齢の子どもがかかわっていることで、生徒は問題をより身近に感じたと思う」と話している。
A4判、39ページ。協力金として1冊2千円。問い合わせは人間いきいき研究会(0836・62・0379)へ。