7月4日12時0分配信 毎日新聞
来年3月末に閉鎖される国立天文台太陽観測所「乗鞍コロナ観測所」(長野・岐阜県境)施設が3日、報道関係者に公開された。戦後間もない1949年からわが国唯一のコロナ(太陽を取り巻く大気)の観測所として活躍してきたが、冬は氷点下20度以下の厳しい自然環境の中、建物が老朽化したため、今年10月末で観測を事実上終える。60年の観測の成果について、末松芳法所長(太陽物理学専攻)は「コロナの明るさが11年周期で変化することを突き止めることができた」などと語った。【奈良正臣】
同観測所は当初、東京大学の東京天文台の付属施設として開設された。乗鞍・摩利支天岳(標高2876メートル)頂上近くにある木造一部2階建て施設には、口径10~25センチの「コロナグラフ」と呼ばれる太陽の表面を調べるため専用の天体望遠鏡が設置されている。コロナは太陽本体の100万分の1しか明るさがないため、空の透明度などで天体観測に適した高地の乗鞍岳が選ばれたという。
しかし、冬場には建物が埋もれるほどの雪と極寒の地となる。食料は貯蔵食品、水は雪を溶かして使う。計9人が2、3人のチームに分かれ、1週間交代で観測を続けたが、98年からは、晴天日数が少ないことや労力軽減のために5月中旬から10月末までの観測体制となった。昨年は快晴で観測ができたのは60日間だったという。
施設の中で最も興味をひかれるのは、外側に鉄板を張っただけの60年の歴史を刻んだ木造ドーム。約5平方メートルの部屋中央には、開設当時から口径10センチのコロナグラフが据えられ、天井は手動で開け閉めする。末松所長は「冬は凍りついたドームの雪落としが命がけでした」と振り返った。
閉鎖を前に、自治体などに施設の利用方法を公募したが、応募はない。3年前から観測所長を務める末松所長は、06年に打ち上げられた日本の太陽観測衛星「ひので」の開発にも携わった。「地球に影響を与える太陽の現象変化などを警告する宇宙天気予報にも、コロナ観測は必要だ」と話している。